宝飾業界歴10年。家業を継ぐにあたって、先代が愛用していたジュエリールーペを譲り受けた。小売業がメインのため店頭で宝石鑑定をする機会は稀だが、視察先の海外で買い求めた宝石を眺め始めると、時間を忘れるほどに没頭する。
「ダイヤモンドは無色透明に見えますが、ルーペで内包物を覗くと鉱石の成長後がさまざま見られます。小さな結晶が岩盤の中で幾星霜もの月日を過ごし原石になっていくーーその過程に思いを巡らせると、いま手もとにその石があることさえも奇跡に感じます」
ルーペ越しに広がる光り輝く石の中の宇宙。鑑定士の勉強を通して、宝石にさまざまな種類があることも知った。顕微鏡でダイヤモンドの中を初めて見た時の感動は、今でも忘れられない。
「言ってしまえば単なる石かも知れない。ですが、一つひとつに不思議な力があり、その美しさは唯一無二。そういったところが、身に着ける人の心を明るくし、ときに支えるものになれる所以だと思うんです。
鑑定士の勉強中、『張りを作るために節(ふし)を持つ』という言葉を知りました。まさに宝石は人生の節目に持つことで気持ちにハリを作るもの。僕たちは宝石の魅力を発信していくと共に、時代に置き去りになっている“節目の大切さ”を伝えていく役割もあるんです」